心筋梗塞や狭心症に代表される虚血性心疾患は、日本では欧米各国に比べて少ないとはいえ、今や3大死因の一つになっています。その原因は全身に血液を送り届けるポンプの役割を果たす心筋の機能不全で、動悸や息切れ、狭心痛などの症状が現れます。このような症状を心不全といって日常生活に支障を及ぼすことが少ない軽度な症状から人工補助心臓や心臓移植を必要とする重篤なものまで多岐に渡ります。軽度から中等度の心不全に対しては利尿剤で血液量を下げたり、血管拡張剤などで血圧を下げたりして心臓への負担を軽減する薬物療法が施されていますが、長期的な生命予後については必ずしも治療満足度は高くありません。
PDEは、セカンドメッセンジャーのcAMPやcGMPを分解する酵素で、細胞内シグナル伝達を調整する役割を担っています。PDEには11種のサブタイプが存在しますがcGMPに特異的なのはPDE5とPDE9の2種類です。心臓ではPDE5がNO(一酸化窒素)依存的に産生されるcGMPを選択的に分解することが明らかにされ、その阻害薬が勃起不全や肺性高血圧症の治療薬として上市されています。最近、PDE9阻害がANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)依存的なcGMPレベルを上昇させて、圧負荷による心筋収縮能低下や心筋細胞の肥大を有意に軽減するという結果が報告されました。当社は、PDE9阻害薬が、急性期症状と長期生命予後を同時に改善する新たな心不全治療薬として期待できると考え、開発候補品としてTT-00826を特定することに成功しています。2019年12月にIND申請、2020年3月に、最初の健常人への投与が開始されました。